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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)9号 判決

一、原告の主張する請求原因事実のうち、第一項から第三項までは、当事者間に争いがない。

二、そこで、原告の主張する取消事由の有無について判断する。

(一) まず相違点(二)についてみると、引用発明におけるステアリング系統が本願発明の構成要件にいう「操縦者の四肢がほとんど常時係合ないし接触する運行体における操縦者出力伝達ないし保持の各エネルギー(信号を含む、以下同じ)系統の少くとも一系統以上」に該当するものであること、引用発明における安全リング(3)とそれに連動する応動スヰツチ(A)の組合せが本願発明における「エネルギー受感要素」と呼び得るものであることは、いずれも疑問の余地がない。したがつて、両発明は、操縦者の四肢がほとんど常時係合ないし接触する運行体における操縦者出力伝達ないし保持の各エネルギー系統の少くとも一系統以上の中にエネルギー受感要素を設置する構成である点においては一致しているということができる。しかし、引用発明におけるエネルギー受感要素が操縦者出力伝達ないし保持の各エネルギー系統の少くも一系統以上に「介設」したものであるかどうかについては争いがあるので、この点について検討する。

一般に、「介設」は、機構的には、ある装置を二つの装置の間に挿入して一方の装置の作用がこの中間に挿入された装置の働きによつて他の装置に伝達されるとの意味に解されているところ、成立に争いのない甲第一号証と同第四号証によれば、次のことが認められる。

(1) 本願発明では、運転者の四肢と、これが常時係合ないし接触している装置、たとえばハンドルとの間に受感要素が挿入されており、運転者のエネルギーがハンドルに加えられると必らずこの力が受感要素を働かして所要の制動部分に作用を及ぼすような構成となつており、すなわちハンドルと受感要素と制動装置とは直列的な接続となつている。これに対し、引用発明では、ハンドルと安全リングとは機構的には無関係で、運転者がハンドルに力を加えてこれを強く握つても必ずしも拇指で安全リングを押す力がそのまま増大するとは限らず、したがつて運転者のステアリング系統に加わる力と受感要素である安全リングに加えられる力とは直接関連がないから、ハンドルに加えられる力は制動装置の作動とは関係がなく、安全リングと制動装置だけが機構的に接続している構成となつており、ハンドル、安全リング、制動装置とは直列的な接続となつていない。

(2) 本願発明では、運転者の意識下の運転において、その四肢に発生したエネルギーの変化を受感要素が忠実に受けて信号を発し、制動が働らくように作用し、その結果として緊急危険時に対処するという作用効果を発揮する。

これに対し、引用発明では、運転者の四肢が常時接触する系統であるステアリング系統の中に受感要素である安全リングが単に組み込まれているにすぎず、制動装置に関連するのは安全リングのみで、ハンドルと安全リングとは機構的には独立しているから、ハンドルに加えられる運転者の力の変化があつても、安全リングにこの力の変化が確実に伝えられるとは限らず、ハンドルに加えられる力とは関係なしに直接安全リングに加えられる力に変化があつたときにのみ制動装置に影響を及ぼす構造となつている。したがつて、通常の意識下の運転時においても、安全リングから拇指を離すのみで制動装置が発動することとなり、運転上に支障があつて、かえつて危険でさえあり、これを防止するために安全スヰツチを必要とすることとなつて実用性に乏しい。そればかりではなく、運転者の意識下の運転において緊急事態が生じた場合には筋肉が緊張して異常に大きな力を発生することは、人体の生理現象としてよく知られているところであるが、このような緊急事態に発生した異常な力は逆に安全リングを押す力の増大となり制動装置を発動することができない。

そうだとすると、引用発明は、本願発明のように操縦者の四肢の常時係合ないし接触する運行体における操縦者出力伝達ないし保持の各エネルギー系統の少くも一系統にエネルギー受感要素を介設したものとはいえず、受感要素を単に上記の系統中に設置したにすぎないものといわざるを得ない。

(二) 次に、相違点(三)について検討すると、原告は、本願発明の構成はその制動出力が制限応動機構(L)と受感要素(S)による可変値であり、運転者の随時制御に服するものであると主張する。本願発明の特許請求の範囲中にはこのような表現が記載されていないことは、被告の主張するとおりである。しかしながら、前掲甲第一号証の本願発明の詳細な説明特にその実施例の説明からみて、原告の主張する上記構成は、特許請求の範囲中の「該要素中の当該操縦者出力のエネルギー準位が当該操縦者によりほぼ定まる通常値を超過するエネルギー帯域(応動帯域と称す)においてのみ運行体の適宜制動手段を自動的に発動及び制御する」という構成を指すものと解するのが相当である。けだし、前掲甲第一号証によれば、(イ)本願発明の方式が運転者の通常の意識下における運転制御に関するものであること、(ロ)本願発明の明細書中に「運転中において緊急危険時には一般に操縦者の神経は反射的に緊張状態を呈すると共に筋肉を現状より強度的に収縮する。したがつて本願発明方式の常時係合は従来の随時係合の方式より緊急時における初期制動の見地から安全性において有利である」との記載があること、(ハ)同明細書中の「一定通常値を超過する」との用法は、一般に超過が一定限度を越えるという意味であつて、一定値以上の値と解されること等を綜合すると、本願発明における原告主張の前記構成は、予め設定された一定値以上のエネルギーが発生したときにのみ制限応動機構(L)が作動して制御手段を自動的に発動制御する構成と解されるからである。

そうであるとすれば、前記認定のとおり、運転者が居眠状態のような意識緩慢または意識喪失の状態において安全リングから拇指が離れると自動的に制御装置が発動する、すなわち安全リングに加えられる力が一定の通常値以下になると制動手段が発動する引用発明とはその構成上相違があることは明らかであるといわざるを得ない。

(三) 以上認定の事実によれば、本願発明と引用発明とは、部分的構成において差異があるばかりでなく、全体的構成においても相違するものといわなければならない。すなわち、本願発明は、その特許請求の範囲に記載された構成要件である「操縦者の四肢がほとんど常時係合ないし接触する運行体における操縦者出力伝達ないし保持の各エネルギー系統の少くとも一系統以上に介設した受感要素を備えていること」と「該要素中の操縦者出力のエネルギー準位が操縦者によりほぼ定まる一定通常値を超過したエネルギー帯域においてのみ制動手段を自動的に発動制御すること」とが相まつて居眠りのごときを含まない運転者の意識保持中の状態でのみ作用する構成になつている。これに対し、引用発明は、居眠りごとき運転者の意識緩慢ないし喪失の状態でのみ作用する構成になつている。それ故、両発明は、その全体的構成において相違するものであると認めざるを得ない。

被告は、本願発明の構成と引用発明の構成とを比較すると、本願発明における「操縦者出力伝達ないし保持の各エネルギー(信号を含む)系統の少くも一系統以上に介設したエネルギー受感要素」は、引用発明におけるステアリング系統に設けられた安全リングとそれに連動する応動スヰツチAとを包含すると考えられる上位概念であり、全体としても、引用発明の構成は本願発明の構成を具体化した一つの形に相当する旨主張するが、そうでないことは、前記認定に徴し明らかである。

三、以上の次第で、本件審決には原告主張のとおりの違法があるから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がある。

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